今回はトッテナムの躍進の大立役者であるマウリシオ・ポチェッティーノ監督について徹底解説。愛用するシステムやプレス構造などといった守備戦術、ビルドアップのシステム、パーソナリティについて細かやかに説明。そしてトッテナムと彼の歩みについて振り返る。
戦術
愛用するシステム
ポチェッティーノが最も功績を残したトッテナムの監督時代に愛用していたフォーメーションは4-2-3-1。このシステムはメッシ加入前のPSGでも愛用していたシステム。このシステムをトッテナム時代に最適化し、洗練されたビルドアップの形を作り出していた。
ポチェッティーノは手持ちにある駒を最大限に使うのがうまい監督でもあるので必要に駆られた時は4-3-3も柔軟に使う。ネイマール、ムバッペ、メッシが万全であればこの3人は起用しなければならないというフットボール界では当たり前な暗黙な了解があるため、そういう時は空気を読んで4-3-3を選択する。
現在PSGでは稀代の戦術家であるトゥヘルが残していった遺産を上手に使っている印象だ。トゥヘルがPSGに戦術的なバリエーションとハイプレスとポゼッションの徹底を行った。ポチェッティーノはメッシ、ネイマール、ムバッペの3人をうまくマネジメントしながら戦術と個のバランス調整をおこなっている。
前所属の会長であるレヴィの経済戦略のもとうまくやりくりできていたので、フロントとはまず衝突しないタイプだからこその柔軟性とも言えるだろう。
高インテンシティとハイプレス
ポチェッティーノといえばハイプレスと攻撃的なフットボールが最大の売りだ。
選手時代にビエルサの影響を受けていたからだろうか、ポチェッティーノは「攻撃的な守備」を好む。それゆえにハイプレスや高強度なチームを構築する。
ポチェッティーノはもちろんインテンシティのあるトレーニングを日常から行なっており、ワトフォードに移籍後にダニーローズはインタビューでこう語った。
ポチェッティーノが来てから誰も練習をサボらなくなった。それまでの練習では数人サボっていた選手はいたけどね。
そしてポチェッティーノの代表的なプレス構造について説明する。
スパーズ時代には4-2-3-1で前の4枚、デレアリ、ラメラ、エリクセン、ハリーケインそこに加えてソンフンミンなどのタレントが連動したプレスで相手を網を使った追い込み漁のようにサイドへ誘導していく。サイドに誘導した後はムサ・シソコ、ワニャマ、ムサ・デンベレらといったフィジカル系のボランチとサイドハーフ、そしてサイドバックで挟み込む。
ケインがどちらのサイドではめるかを決める舵取り役、それに合わせて中盤がサイドの圧縮することでボールホルダーの選択肢を奪っていくこととなる。下の図のは相手が4バックでビルドアップした際の一例である。

解任される19-20シーズンまでポチェッティーノはこの形を愛用しており、組織的にも洗練されていたシステムであった。このスライドの速さが重要となる守備システムをとる以上、中盤の5枚の運動量が重要となる。またこれを相手陣内で狙っていたため、一回一回の守備時の消耗は激しい。
ポチェッティーノが指揮し始めたころ、スパーズの中心選手は若くこの強度のサッカーを通年続けるだけの肉体レベルを持っていたが、中心選手たちが成長し代表に呼ばれるやら怪我するやらなんやらでトッテナムの強度はシーズンごとに低下していった。事実ポチェッティーノの最終年はPPDAの値が全盛の16-17シーズンに比べると大幅に上昇していた。
PPDAの数値は分かりやすくいうと1回の守備アクション毎に、相手チームが相手陣内で何回ボールを繋いだかの数値だ。つまりこの数値が低ければ低いほど相手に対し、高めでボールを奪いにいけているということになる。詳しい説明は英語であるが下記のホームページを見てほしい。

まとめるとポチェッティーノは守備は基本的にハイプレスかつハードな守備を好んでいる。しかしこれはあくまでの話で、対マンチェスターシティ戦で撤退守備でカウンターを狙ったり、現在のPSGのチーム状況で4-4-2の守備を選択したりと信念を必ず貫くというわけではなく、状況によって使い分ける柔軟さもあることも同時知っておいてほしい。
ビルドアップ
ポチェッティーノのビルドアップのキーワードは三角形だ。ティキタカが世界中の流行となった時に注目されたキーワードでもあり、ポゼッションを目指す上の基礎中の基礎だ。彼のビルドアップシステムはとてもシンプル。
ポチェッティーノは4バックを好む。ビルドアップも4バックがベースとなっている。攻撃的なサッカーを好むポチェッティーノはセンターバックがボールを持った際に、両サイドバックを押し上げる。この時、プラス1を作るためハーフの選手が降りてきて数的優位を作る。トッテナム時代にはこの役割をエリクセンが主に行なっていた。
それでも詰まった際にはトップ下の選手が降りてきたり、センターフォワードが降りてきてそれと逆の動きをするように空いている選手が裏のスペースに走り込む。ボール周辺にはしっかりと三角形を作っており、速いボール回しでプレスを回避する。

とりあえずビルドアップは上図のようなものがベーシックな形だ。これは16-17シーズンのものだが、基本的な陣形はあまり変わっていない。センターバックが結構ボールを持てるタイプであったのでこれくらいシンプルでも十分通用するレベルだったはずだ。
またハーフが一枚降りてくるこの形以外にも、ボランチが一枚降りてバックスリーとなり、ビルドアップを行うことがある。この2つはとりあえず状況に応じて使い分けるといった形で非常にシンプルだ。改めて考えてみると、個人の判断に任せているウエイトはわりかし多かったんじゃないかなと思う。
選手に寄り添って築く信頼関係
ポチェッティーノはインタビューでよく選手への信頼を口にする。チームをファミリーと表現することが多く、選手とは親密な関係を築く監督だ。選手だけでなく、クラブスタッフなどからも非常に印象が良い人格者のようだ。
彼のもとで指導を受けた多くの選手がポチェッティーノに対して良い感情を抱いている。
代表的な選手といえばルーク・ショーが挙げられる。ルーク・ショーはサウサンプトン時代に食事管理がうまくいかずコンディション面が整わないという問題を抱えていた。そんなショーに対し、ポチェッティーノは練習が始まる前に彼の家に車で行き、野菜スムージーを作ってあげていたようだ。
ルーク・ショーはポチェッティーノの下で、期待に応えるかのように順調に成長しマンチェスター・ユナイテッドへステップアップ。英国で最も有名なスポーツジャーナリストの一人であるキジェム・パラゲは「ルーク・ショーにポチェッティーノのことを尋ねると、すごく嬉しそうな顔で話してくれるよ」と語っている。
またアダム・ララーナもポチェッティーノの下で活躍した選手の一人でポチェッティーノのことを以下のように絶賛している。
彼は監督としてだけでなく、人としてもワールドクラスだ。彼の指導を受けると自信が溢れてるくるんだ。
彼の成功にはパーソナリティも大きく関わっているだろう。
トッテナムとの歩み
トッテナムの近年の成長においてポチェッティーノは欠かせない存在だった。
クラブのアイコンであるハリー・ケインを大成させ、デレ・アリを一瞬でトップレベルに導いた。アルデルヴァイレルトやフェルトンゲン、ソンフンミン、エリクセンなど彼のもとで大きく成長した選手は数知れない。今のスパーズを支える選手を育成した功績は偉大なものだ。
また結果も素晴らしいものを残した。2014年からスパーズの監督に就任すると4シーズンにわたってチャンピオンズリーグに導いた。そして18-19シーズンにはクラブ史上初のチャンピオンズリーグの決勝に進出という偉業を成し遂げた。準決勝でのアヤックス相手の逆転劇はチャンピオンズリーグ史に残るものだ。
プレミアリーグの各クラブが買収による金満化によって経済力に格差が生まれるも、彼の率いるスパーズは自分らより何倍もリッチなクラブと正面から渡り合っていた。クラブ内外にとって曲者でもあるレヴィ会長とうまくやれていたのも彼の高い能力が故だろう。
成績不振により解任されてしまったポチェッティーノだが、今もなお彼の復帰を心から待ち侘びているファンも多いに違いない。
PSGで何とかうまくやりくりしているポチェッティーノ監督だが、リーグアンでの好成績も解任の噂が後を絶たない。マンチェスター・ユナイテッド行きが大きく噂されているが、今赤い悪魔の周辺は並々でないほど騒ぎっているので信憑性は薄い。
スパーズで最も偉大な監督の一人である彼が今後、どこのクラブへ行くのか注意深く見守る必要があるだろう。
終わりに
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